追悼 スーザン・ソンタグ

book_Sontag1.jpg先月の28日に訃報が伝えられたスーザン・ソンタグを追悼して、「この時代に想う テロへの眼差し」という本を紹介しておきます。この本は、9.11直後に立て続けに出版された有像無像の「テロ本」ブームの中で、チョムスキーの「アメリカに報復する資格はない」と並んで、骨太の批判精神を感じた傑出の一冊です。私は、大江健三郎との往復書簡が載っているというのを聞いて、読んでみたくなり購入したのですが、「After September11」と「Before September11」という2部構成になっている本書の内容は、9.11事件直後に発表された2~3の論述と、それ以前に書かれた「サラエヴォでゴドーを待ちながら」、大江健三郎との往復書簡「未来に向けて」、アムネスティ講演「戦争と写真」の記録などで構成されています。

9.11とは直接関係しない内容が大部分を占めるこの本が、「9.11テロ関連本」としてプロデュースされていたことに、当時は若干の不満を感じたものですが、今改めて読み返してみると、戦禍の中に自ら身を置いて書かれたサラエヴォについての記述など、その後の世界に起こったアフガン戦争はおろか、対イラク戦争や北朝鮮問題、目下震災と内戦との二重苦にあえいでいるスラトラ周辺の人々の状況に至るまで、全てに普遍的に当てはまる真理のようなものを感じさせます。この本の原題は「In Our Time, In This Moment」。今この時代に語るべき言葉と想いが詰め込まれたスーザン・ソンタグ最後のメッセージと言えるのかもしれません・・。

「サラエヴォでゴドーを待ちながら」は、スーザン・ソンタグが1993年に戦乱の最中にあったサラエヴォに乗り込んで行って、現地の役者とスタッフを使って演劇を上演したときのお話です。街中が常に砲撃の飛び交う戦争状態で、外を歩けばいつ自動掃銃で撃たれるか分からない、という状況の中で「演劇」を上演するというだけでも正気の沙汰じゃないというのに、なんと上演するお題目が「決して来るはずのない人を待ちつづける」という絶望を描いた「ゴドーを待ちながら」だというだから、もはやアイロ二ーを通り越してますね・・。べケットの「ゴドーを待ちながら」は、ずいぶん昔に気になってオリジナルの戯曲を読んだことがあったのですが、その時はあくまで空虚なファンタジーとして受け止めただけでした。その作品がこんな風に現実の状況と重ね合わせて演じられると全く違った重みを持ってくるものですね。

軍事支援を公言しながら、遅々として助けに来てくれないアメリ力のことを指して「クリントンを待ちながら」と冗談を言い合ったりしていたそうなのですが、今現在スマトラ沖の震災で被害に遭って救援を待っている人たちの心理も、それと全く同じような「絶望の中で待ち続けている」状況に変わりないのではないでしょうか?そう考えると、「ゴドーを待ちながら」的状況というのは、今も世界の至るところに現出しているのだ、ということに気がつきました。

大江健三郎との往復書簡もなかなか興味深く、何よりも作家・批評家であることに常に真摯であろうとする2人の態度には感心させられます。「この人たちはこんな責務を自らに課しながら、生きてるんだなぁ」と感じました。そして、ファシズム化しようとしている社会も恐いですが、本や雑誌・マスメディアなどあらゆるものが商業主義化されてキッチュ(低俗)になってしまう今日だからこそ、何かを語ることについて「真剣」でなければならない、斜に構えては(シ二カルになっては)いけない、という意見には身を詰まされるものがあります。

確かに今の日本人は「テレビでやっていたから」「雑誌で取り上げられていたから」というだけのことでものすごく影響されてしまって、批判精神を失っている部分が大きいと思います。「実際に自分の目で見て体験したこと以外の事柄には、意見したり論じたりしない」というソンタグの信念ほどに徹底した行いはできなさそうですが、私もものを語ることの「真険さ」を忘れずに生きていきたいな、と思いました。そして、今年のささやかな目標の一つとして、以前から気になっていたスーザン・ソンタグの小説「火山に恋して」を読んでみたいと思っています。(ただ、みすず書房だけあって4200円という値段がちょっぴり高いですよね・・)

book_Sontag2.jpgスーザン・ソンタグ「他者の苦痛へのまなざし」
book_Sontag3.jpgスーザン・ソンタグ「火山に恋して」

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良心の領界/スーザン・ソンタグ本屋で少し立ち読んで今まで読んだことがない新鮮さがあった。「今」というものと真剣に向き合っているなにか。そういったもので僕もあらな... 続きを読む

コメント(1)

はじめまして!

松岡正剛さんのサイトで
最近スーザンソンタグさんのことを知ってから
ずっと気にかかっていました。

いま「良心の領界」を読んでいますけれど
ある意味で、とても気になることをお話していらっしゃいますね…

これから、イロイロなものを考えてみたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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多摩川のほとりでのんびり暮らす3人家族の日常と果てなき好奇心を綴ったブログです。

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