このカテゴリーでは大長編ドラえもんの作品を1つずつレビューしていこうと思うのですが、まずは今週未の「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」の公開に合わせて「のび太の魔界大冒険」のレビューから始めることにします。「のび太の魔界大冒険」は、大長編ドラえもんの中でも個人的に1、2を争うお気に入りの作品なのですが、一番の醍醐味はハリー・ポッターと同様、「自分にも魔法が使えるかも」という夢に溢れているところと、「パラレルワールド」という高等な概念を巧みに取り入れた本格SF級のシナリオ・メイキングにあります。
お話の発端は、毎日勉強ができずに怒られてばかりののび太が、「もしも魔法が使えたらなぁ」と空想するところから始まるのですが、ドラえもんに「魔法なんて迷信だ」と一蹴されても引き下がらずに、「どうしてこの世に魔法がないんだろう?」と疑問を抱き続けるのが、のび太のいい所です。いつもこの、のび太の純粋な疑問が新しい世界への扉を開くのですが、今回は相談を持ちかけられた出来杉くんが、長年に渡る「魔法」と「科学」の対立の歴史を紐解いてくれて、錬金術に代表されるように魔法や呪術も決して迷信ではなく、単に現代のパラダイム(ものを考える枠組み)として「科学」の方が採用されたに過ぎない、と教えてくれます。こんなことは親も学校の先生も教えてくれない、大学院レベルの考え方だと思うのですが、そういう高尚な理論をサラリと解き明かしてくれるのがドラえもんのすごいところです。
もしも魔法が使えたら?
さて、ルネサンス以降の魔女狩りを経て魔法が完全に根絶されてしまったことを知ったのび太は、「もしもボックス」で「もしも魔法の世界になったら?」とお願いすることで、科学の代わりに魔法が栄えた世界にしてしまおう、と思いつきます。魔法の世界に変えて、早速魔法を使おうと試すのび太とドラえもんでしたが、ちっとも魔法が使えません。実は魔法の世界と言っても、学校できちんと魔法の勉強をしたり、高級な空飛ぶじゅうたんを買わないと、上手く魔法が使えない、というのです。この辺は、高いホウキや教科書を買い揃えることが魔法使いのステータスになっている、というハリー・ポッターの設定と似ていて現代的な風刺に満ちてますね。なんといっても、ジャイアンたちがホウキにまたがって追いかけっこをしたり、学校の授業でチョークを宙に浮かせて黒板に文字を書いたりと、日常に根ざしたのどかな魔法ワールドが見ていて楽しい気分にさせてくれます。
科学vs魔法
そんなわけで、魔法の世界でも相変わらず落ちこぼれののび太は面白くないので、元の世界に戻そうとするのですが、そんな折に魔界の研究をしている満月博士と、その娘・美夜子と出会い、地球侵略を企む大魔王と戦うために魔界へ乗り込むことになります。魔界での冒険の描写は、おなじみのジャイアン・スネ夫・しずかちゃんと力を合わせての友情物語となるのですが、迷いの森や人魚が誘惑する海など奇想天外な魔界のトラップを、ドラえもんの道具の「科学」の力で次々切り抜けていく展開は、科学vs魔法という感じで見ものです。
今回一番活躍するひみつ道具は、敵に見つからず潜入するために使った「石ころ帽子」です。かぶると路上の石ころのように存在感がなくなるので、味方も見えなくなってしまうのが欠点ですが、みんなと一緒にいるはずなのに、戦いは一人一人の肩にかかっている。閑散とした敵地において、そういった孤独感や悲壮感を盛り上げる演出に一役買っていると思います。
また、今回のゲストキャラクターである美夜子さんは、巨大なじゅうたんを自在に操縦する魔法の達人ですが、魔王の呪いによってかわいい猫の姿に変えられてしまい、マスコット的な役割も果たしています。女である上に猫の姿という2重のハンディを背負いながらも、果敢に戦いに挑む自立した性格で、臆病なのび太を励ますシーンでの2人の対比が印象的です。
パラレルワールド理論

魔王との対戦に完敗し、2人だけ逃げ延びたのび太とドラえもんは、やはり「もしもボックス」で元の世界に戻そうとするのですが、それでは「魔法の世界」のしずかちゃんやジャイアンたちが助からない、ということに気づきます。そう、実は「もしもボックス」は「パラレルワールド間を移動する」という多元宇宙論に乗っ取った超SF的な装置だったのです。今回は、上の図で説明すると、のび太たちが元々いた「科学が支配する世界A」から「魔法が支配する世界B」へと移動したことになります。多元宇宙論では、他にも「もしも~だったら」という可能性の分だけパラレルワールド(平行宇宙)が無数に分岐して、同時に存在していると考えられるのですが、これらは永久に交わらないため、今回一緒に冒険していたジャイアンやしずかちゃんたちは別の世界の住人ということになります。
だから、「魔法の世界」のしずかちゃんたちも助けてあげないと解決にならないね、ということで再び魔王との対決に挑むわけですが、パラレルワールドという難しい概念を分かりやすく盛り込んでいるだけでなく、例え自分の利害が及ばない別の世界の人であっても手を差し伸べる「助け合い」の精神というのを描いているところが、当時の私には子供心に印象的でした。別の世界のジャイアンやしずかちゃんなら別にいいじゃん、とついつい思ってしまいますからね・・。
また、パラレルワールドの他にタイムスリップも絡めて、序盤から巧みな「伏線」を張っていたり、以前も解説したようにドラミちゃんのアイデアによる見事な道具のコンボ技で、窮状を打破してしまったりと、子供向けとは思えない頭脳派のプロットがいっぱいで、「科学まんが」としてのドラえもんの醍醐味を堪能できる一本です。なにより、のび太でも努力すれば魔法が使える、という設定が夢があっていいですよね。
風のまにまに号

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